麗雪神話~理の鍵人~
槍を引き抜くと、鮮血がほとばしる。

―グォォォォッ!

獅子は苦しそうに鳴いた。

だが、致命傷には至らなかったようだ。

手負いとなった獅子は、見境なく暴れ出した。

あちこち駆け回り、岩に突進し、のたうちまわる。

(とどめを刺さなきゃ危ない!)

しかし迂闊に近づくと怪我をする。セレイアが隙をうかがっているうち、獅子がヴェインへと目を向けた。

その瞳に敵意をたぎらせ、ヴェインへと突っ込んでいく。

「ヴェイン! 危ない!」

だがセレイアからは距離があり、間に合わない!

咄嗟にセレイアが取った行動は、驚くべきものだった。

自分の持っていた槍を勢いよく地面に滑らせ、ヴェインへと渡したのだ。

「その槍を使って!!」

ヴェインは驚愕に目を見開いていたが、素早くセレイアの槍を掴むと、獅子に応戦した。

ヴェインの動きは素晴らしかった。

怪我の影響をまったく感じさせない、滑らかな動きで攻撃をかわす。

勝負は悔しくなるくらいあっさりとついた。

ヴェインは獅子を余裕であしらい、心臓を一突きにして見せたのだった。

守護獣の姿は、霧虫たちが消える時のように、ふわりと霧散して消えた。

「…よかった…けがはない? ヴェイン」
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