麗雪神話~理の鍵人~
無防備に、安堵したような表情でセレイアが近づいてくる。

(とことんバカな女だ。理解不能だ)

ヴェインはひどく驚いていた。

そしてなぜか苛立っていた。

敵である相手に、自分の槍をあっさり渡すなど、いかなる時であろうとも言語道断、ありえないことだ。

ヴェインがその気になれば、このまま武器を奪って逃げ去ることも、この場で串刺しにして殺すこともできるというのに。

この女は、ヴェインがあっさりと武器を返すとでも思っているのだろうか?

「ふん」

不機嫌そうに鼻を鳴らして、ヴェインは手にした槍をセレイアに突き出すようにして返した。

そう、自分は返すのだ。

彼女の予想通りに。

苛立っているのは、きっとそのせいだった。

(こんなところでこいつを殺してもなんにもならないからな。スノーティアスの前でないと)

どことなくその考えが言い訳めいている気がして、ヴェインはさらに苛立った。


守護獣の守っていた一本道の先に、理の塔の入り口が見えた。
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