麗雪神話~理の鍵人~
「そんな…っ! こんなのって…! うそよ、ポック、目を、目を開けて……っ」

セレイアの目からとめどなく涙があふれ、小さなポックの頬を濡らす。

どうして応えないのだろう。

―なんだよ冷たいなぁと、目を開けて今にも軽口を叩きそうなのに。

「セレイア……」

ディセルはそんなセレイアの肩を優しく抱いた。

けれどその口からこぼれたのは、彼女にとって辛い言葉だった。

「セレイア、悲しみに浸っている時間はない。
事は一刻を争うって、ポックも言っていただろう?
今は悲しむより、ポックの最期の願いを、叶えてあげなきゃ」

「うぅ……うっ……」

もう一歩も動きたくない、とセレイアは思った。

もう誰の死も見たくなかった。

もう誰にも……悲しい死に方をしてほしくなかったのに。

どうして、ポックが死ななければならなかったのか。

(ポック、ポック…!)
< 144 / 159 >

この作品をシェア

pagetop