麗雪神話~理の鍵人~
(…待って)

心は叫んだけれど、声にならない。

セレイアはまだためらってしまう。

(だって、私、ヴァルクスを…)


―セレイア様はもう、幸せになれますわ。いつでも。
ただご自分で、幸せを締め出してしまっているだけ。
もういいのです。幸せになって。
もう十分なんです、セレイア様。


いつかのフリムヴェーラの言葉が脳裏をよぎる。

それは本当なのだろうか。

私はもう、幸せになれるのだろうか。

なっても、許されるのだろうか……。

共に旅をしてきた間の、ディセルの様々な表情が目に浮かぶ。

優しげに微笑む姿。

困ったように笑う姿。

雪原にたたずむ姿。

時に怒り、時に涙し、いつでもセレイアのそばで、セレイアを守ってくれていた。

彼の愛情を、セレイアは今、いっぺんの疑いもなく、信じることができた。

だから勇気が欲しかった。

一歩、踏み出す勇気が………。

「待って……!!」

気が付いたら、セレイアは駆けだしていた。
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