麗雪神話~理の鍵人~
そしてディセルの背中に、体当たりするようにして思い切り抱きついていた。

ディセルの体が驚きに強張るのを感じながら、セレイアは言葉を探した。

ヴァルクスのことがまだ好きだ。

だがそれはいつのまにか、霞がかった思い出の中の宝物となっていた。

それに比べて今この胸を満たす想いは。

遠き日のヴァルクスを想うよりもずっとずっと、鮮烈で強い想いは。

(言わなきゃ……!)

セレイアの心臓がばくばくとうるさく音をたてる。

「―ディセル。私、私は」

うまく言葉にできるだろうか。

いつの間にか、惹かれていたこと。

好きだと言われて、本当は嬉しかったこと。

こんなにも強く、傍にいたいと思う気持ち。

セレイアはついに、その想いを唇に乗せた。

「あなたが好き………かも知れない」

―ああなんで、そんな曖昧な言葉にしてしまうのか。

自分で自分が歯がゆい。けれどこれがセレイアの精一杯の告白だった。
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