麗雪神話~理の鍵人~
サラマスとシルフェが小舟から降り、その人の前でこうべを垂れた。呆然としていたボリスも慌てて彼らに倣った。

「わたくしは水の神ディーネリア。
サラマス、シルフェ、久しぶりね。皆、どうか顔を上げてください」

ディーネリアにそう言われ、サラマスとシルフェは顔を上げた。ボリスも顔をあげかけたが、ふと目に映ったサラマスの表情に驚いて、中途半端なまま固まってしまった。

(えっ!?)

サラマスは、ひどく熱を持った表情で、ディーネリアを見つめていたのだ。

わずかに寄せた眉根から、痛みや苦しみといった感情も伝わってくる。

隣のシルフェも顔こそあげていたが、目を伏せている。

サラマスの視線に、気づかないはずがない。

(…おい、どうなっているんだ)

「サラマス、よくぞ私の命で人間界に降りてくださいました。
礼を言います」

ふわっと、小首を傾げるようにして、ディーネリアが笑う。

そんなふうに笑うと、彼女の美しさに、たとえようもない可憐さが備わる。

世の男性誰もが魅了されてしまいそうな、完璧な女性だ。
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