麗雪神話~理の鍵人~
ディセルもそのことに気が付いているはずだ。

だがその表情から読み取れるのは、呆然とした感情ばかり。まだ、懐かしいとか、愛おしいとか、そう言った感情に到達していないようだ。

致し方あるまい。

やっと、やっと、彼は故郷に帰ってきたのだから。

(…そ、それにしても)

いつまで抱きしめているつもりなのだろうと、セレイアは遅ればせながら赤面した。

わずかに力をこめて、ディセルの体を押しはなしてみる。

その仕草に我に返ったのか、ディセルが謝った。

「……あ、ごめん」

セレイアはゆっくりと優しい手つきで、地面へと降ろされた。

…ちゃんと地面だ、と少し安心する。

なにせ天上界などと言う未知の場所だ。地面らしい地面がなくてもおかしくないのだ。

(それ以前に、私、ちゃんと生きてる…よかった)

「…………」

二人はしんしんと降る雪の中、静かに、向かい合った。

二人とも、何を言葉にしていいかわからなかった。
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