麗雪神話~理の鍵人~
体があちこち痛むとはいえ、打ち身がほとんどで、目立った傷はない。

(助かった………)

今まで危ないことはたくさんやってきたが、本当の本当に、今度ばかりは死んでしまうかと思った。

しかし、厄介なことにも気が付かざるを得なかった。

目指していた理の塔が、遠ざかっていることに。

どれだけ流されてしまったのだろう。

しかも塔に行くには、また登る道を探さなければならない。

痛む体で、仲間たちのもとに戻れるだろうか。

(戻らなくちゃ。
そうだわ……ヴェインは?)

セレイアはきょろきょろとあたりに視線を走らせ、同じように彼が流れ着いていないか捜してみる。

いや、捜すだけ無駄だろう。

自分は本当に運が良かっただけだ。

おそらくヴェインは、もう……。

これでひとつ、大きな憂いが消えたことになる。喜ぶべきことだ。それでもなぜかセレイアの心は晴れなかった。

こんな形ではなく、槍と槍での戦いの中で、きちんと決着をつけたかった…というのは、セレイアのわがままなのだろう。
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