一夜くんとのアヤマチ。
「…やっぱり私も食べちゃおう」

お皿をもう一枚取り出し、カレーを盛り付ける。そしてスプーンを取り出す。

「いただきま~す」

一夜くんと私、二人の声が調和する。

「どう…?」

一夜くんの顔をまじまじと見つめる。料理はそれなりにできる方ではあるのだが、家族以外の男の人に食べてもらうのは初めてなため、一夜くんを見る目が緊張したものになっていた。

「美味しいですよ」

一夜くんの口から出たこの言葉が、救いの福音に聞こえた。

「本当? よかった~。男の人に料理を食べてもらうの初めてだから、気になっちゃって…」

私も一口、口に運ぶ。つい数時間前に食べたはずなのに、一夜くんと向かい合って座っているせいか、味が違うように感じられた。

「…一夜くん」

聞いちゃいけないのは、分かっていた。

「何ですか?」

だけど、一夜くんのことをもっと知りたい。

「…あのさ…」

一夜くんが悩んでいるなら、力になってあげたい。

「…日向先生?」

そんな私の個人的な気持ちが、理性に勝ってしまった。

「…さっき…何があったの…?」
「…」

一夜くんの顔色が変わり、下を向く。…やっぱり、聞いちゃダメだったか…。

「…今はまだ、先生にも言えません。ですが…時が来たら、お話しします」
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