一夜くんとのアヤマチ。
「僕、授業ってどうやればいいのか、分かんなくてさ。自分ではちゃんとできたつもりでも、何かイマイチ分かってくれてる感じがしなくて。受験生の数学を任されてる身なのにね…」
「そうだったんだ…」
「…さっきの時間、授業入ってなかったから見回りしてて、その時に見たんだ。…で、教えられた。僕の授業とは、決定的に違うって」
「…」
「授業が終わった時、鶴花さんが言ってたでしょ? ミスしない先生の授業は面白くないって。…あれ、僕のことなんだ。僕は今まで、授業でミスをしないように、一つ一つ丁寧にやってた。だから確かにうまくいってはいるんだけど、生徒の皆がついて来てくれてないんだ。僕のやり方は間違ってるって、ようやく気づいた」

そして鵜児くんは…私を、そっと、でもぎゅっと、抱きしめた。

「…ありがとう」
「鵜児くん…」

鵜児くんの背中は、温かくて、私が想像していたより、ずっと安心できた。

そして予鈴が鳴ると、鵜児くんは保健室を出て行った。

「…」

何も言えないまま、私はイスに座った。

鵜児くんがあんな悩みを抱えていたなんて、考えたこともなかった。

鵜児くんは、私よりずっと、一人の教師として、真剣に自分の課題に取り組んでいる。

翻って、私はどうだろう?

さっきの授業はうまくいったものの、私はまだまだ未熟で、おっちょこちょいだ。でも…私はそれに、本気で向き合ったことなんてない。

鵜児くんは「教えられた」って言ってたけど、本当に教えられたのは私のような気がした。

今日は、鵜児くんと一緒に帰ろう。
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