一夜くんとのアヤマチ。
そう決めたものだから、仕事が終わった後、私は校門近くで鵜児くんを待っていた。鵜児くんには待っているとは言っていないけど、怒られはしないだろう。

「…来た…」

校舎から出てくる鵜児くんを確認すると、私はすかさず学校名の書いてある柱の前に身を隠した。あっちから気づかれでもしたら…もう普通じゃいられない。

鵜児くんが、校門を出た。

「鵜児くん」

あまり近くで言いすぎてしまうのもどうかと思ったので、少し離れてから呼んでみた。鵜児くんは振り返って私に気づくと、少し目を丸くした後に、優しげな笑顔を浮かべた。

「どうしたの?」
「えっと…今日は一緒に帰ろうかな、って思って」
「…よかった。丁度僕も、鷹夏さんに話したいことがあったんだ。さっきは話しそびれちゃったんだけどね」
「話したいこと?」
「うん」

鵜児くんが小さく手招きする。私が近寄ると、鵜児くんは歩き出した。

「初めて会った時のこと、覚えてる? 講義で席が隣だった時」
「…うん」

私が大学に入って、間もない頃の話。

単位は早めに取っておいた方が後になって楽だ、と聞いた私は、早いうちに講義に出て単位を取っておこう、と考えていた。だから私は、最初の頃はほぼほぼ全ての講義に出席していた。

その日も、私はその流れで講義に出ていた。

「結構混んじゃってるな…」

いつの時代にもカリスマというのはいるもので、その日私が出ようとしていた講義の担当は、大学内でも人気の高い先生だった。

「どこか空いてるかな…」

後ろの方から空いている席を探すと、席の端が一つだけ空いていた。そしてその隣が…鵜児くんだったのだ。
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