一夜くんとのアヤマチ。
その時に私が助けてあげたことで、私のことを優しい人だと思ってくれたらしい。

「…僕は」

独り言のように言葉が漏れ出て、止まる。少し考えたような間を空けてから、鵜児くんは続けた。

「僕はそう思ってるんだけど…僕のこと、どう思ってる?」

そして私に向けられた問いは、今の私にはあまりにも重く、そう簡単に答えが出せるわけがなかった。

「…ゴメン。一晩考えさせて…」

私は取ってつけたようにそう言うと、逃げるようにその場を去り、恐らく今までの最速記録で帰宅した。

「…」

家に入り、ドアにもたれかかる。

「どうしよう…」

迷っているということは、他に本命の人がいるのか、はたまた傾いてきているのか…。

「…」

スマホを取り出し、交流サイトに書き込んでみる。告白されたけど、何故か迷ってしまう私がいる、と。

「…あっ、来た…」

間もなく返信が来た。そこには、こう書かれていた。

「迷っているということは、他に本命の人がいるということだと思います。もしいなかったら、素直にうなずいていられるはずですから」

だが、二、三分後、こんなコメントも来た。

「恐らく、そのまま付き合った方がいいと思います。揺れているということは、少なくともその人に好意を抱いていると思うので…」

結局、自分で決めろということか。

「…」

しばらくドアにもたれかかったまま、私は何をすることもなかった。
< 39 / 120 >

この作品をシェア

pagetop