一夜くんとのアヤマチ。
こんな時にしか気持ちを言えなかった雪月ちゃんが、かわいそうで仕方なかった。

「…昔からずっと一夜の傍にいて、一夜のことは誰よりも分かってるつもりなんだ。だから、一夜がちょっと面倒くさがりなのも、怒りっぽい所があるのも、私は知ってる。…守りたいって、そう思ったの。ずっと…一夜の傍にいたいって」
「雪月…」

雪月ちゃんの手が、弱々しく一夜くんの手を握る。

「でも…無理だった…」

雪月ちゃんの目から、初めて涙が滴った。

「もう…一夜と一緒にいられないからっ…!」

誰より苦しいのは、誰より辛いのは、雪月ちゃん。その事実を突き付けられたような気がして、体が動かなかった。

「何言ってんだ、雪月! ちゃんと生きてるだろ!? 俺は…」
「いいの」

雪月ちゃんの言葉が、一夜くんの言葉を遮った。

「短い間だったけど…一夜と一緒にいられて、すっごく嬉しかった」

そんなこと、言っちゃダメ。言葉は声にならずに、私の中だけでいたずらに反響した。

「好きになって…よかった…」
「雪月っ…!」

私の無力さが、何より恥ずかしかった。一夜くんのことを私より好きな子の命を守れなくて、一夜くんのことが好きだと言える資格なんてあるはずもなかった。

「…日向先生」

雪月ちゃんの柔らかな視線が、私に向けられる。涙を袖で拭き、しっかりと雪月ちゃんの目を見た。だけどその姿を焼き付けようとすればするほど、涙で視界が曖昧になった。
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