一夜くんとのアヤマチ。
素人でも分かる。体は冷たく、脈は無かった。

遠くから、サイレンの音が聞こえてきた。でも、もう遅い。ちょっと前ならその音を待ち望んでいたけど、今はそれはノイズにしか聞こえなかった。

「…」

そして救急車にもう用は無いことを伝えると、サイレンが遠ざかり、部屋の中は静まり返っていた。

「…すみません、私のせいで…」

部屋には、当然ながら先生達が集まっていた。謝っておかないといけない。至極当然のことを、何故か今一度考えてしまった。

「…すみませんで済む話ではないよ、これは」
「停職…下手をすれば免職ですね」
「養護教員には鴫城先生もいることだし、問題ないだろう」

先生達が口々に言いだす。分かっている。その通り。職員会議にもきっと呼び出され、私は職を追われることになるだろう。

「…」

やっぱり、黙っていよう。その方が身のためだ。

「…あの」

その代わりに、一夜くんが口を開いた。

「その話は…後にしませんか? ここで議論しても、まとまった意見は出ないと思いますし」
「ちょっと、一夜くん…」
「何だ、口を挟むな!」
「ひとまずはここから出て行きなさい」
「出て行きませんよ」

先生にそう言われても、一夜くんは揺るがなかった。

「…帰ったら、もっと客観的な議論ができると思うので」
「確か…四組の鴫城君だったね? 君に何が分かる?」
「俺は、雪月の全てを知っています」
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