一夜くんとのアヤマチ。
正直な話、一夜くんをなだめている余裕なんてどこにもなかった。

今すぐここから逃げ出したい気持ちもあったし、もう何もしたくないという気持ちもあった。

だけど、私の目にははっきりと、一夜くんが映っていた。誰よりも落ち込み、悔しがっている一夜くんは、そんな私になだめる力を振り絞らせるには十分だった。

「…でも俺はっ…」

一夜くんの声が震える。

「…大切な人を守れなかった…一人だけじゃなくて、二人も…。…俺は…弱いんだ…!」

そんなことない、そんなことないよ。一夜くんは強いよ。だって、ちゃんと私を守ってくれた。

心では何度だって、そう叫べた。だけど体は言うことを聞かず、一夜くんには伝わらなかった。

「…クソっ…クソっ…!」

見ていられなかった。私はここにいちゃいけない。本能的にそう感じた私は、どこへ行くというあてもなく旅館を出た。

「…ゴメンね、雪月ちゃん…」

真っ暗な道を歩きながら、私は亡霊のようにただひたすらその言葉を呟き続けながらフラフラと歩いた。

私のせいで、雪月ちゃんは全てを失ってしまった。これまでの思い出も、これからの未来も、何もかもを、私は奪ってしまった。

それと同時に、私は私自身の全てを失ったような感覚に陥っていた。だから、あんなことをしようなんて思ったのかもしれない。

「…今、行くから…」

明かりが見える。先ほどの道と比べれば、交通量は多かった。ガードレールの隙間を見つけた私は、右も左も見ることなく、車道に踏み出した。
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