一夜くんとのアヤマチ。
「それで…話って?」

私の隣には一夜くんが、正面には先輩がいた。先輩は私の目をまっすぐに見つめた。

「…えっと…」

…ダメだ。あと一歩のところで、言葉が舌に乗ってくれない。言っておかないとという気持ちは私の体を破裂させそうなほどに満ちているのに、喉でせき止められてしまっていた。

さっきの職員会議で「あなたはもう必要ないです」と、そう言われた時に似た気分だった。言いたいことは山ほどあるのに、雰囲気の持つ力というものに押されたのか、一文字も音にならない。

…助けて、一夜くん…。

その時と同じように、私は祈った。だけどやはりその時と同じように、一夜くんは何も言わなかった。

「…日向ちゃん…?」

先輩の目線がまた私に注がれる。…話があるなんて言わなきゃよかった。今じゃなくても、もっと落ち着いてからにしておけばよかった…。

「母さん」

静寂を破ったのは、一夜くんの声だった。

「どうしたの?」
「…やっぱり俺の責任だから…俺から話す」
「ちょっ…一夜くん…」

言わないで。一夜くんの責任じゃない。寂しくて、垣根を越えてしまったのは私なんだから。

「妊娠してたんだ」

しかし一夜くんは、言葉を続けた。

「…どういうこと…?」
「だから…日向と俺の間に、子供ができたんだ」
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