一夜くんとのアヤマチ。
「それで…何の用事?」

少しびくびくしながら聞いてみる。

「…日向」

少し間が空いて、お父さんの声がした。

「…本当は、何があったんだ?」
「えっ…?」
「わざわざ家に来るなんて、ただごととは思えないからな」
「…言ったでしょ? なかなか会えてなかったからって…」

むしろ逆効果となるかもしれないが、一夜くんと先輩を連れて行くのは当日まで内緒にしておくつもりだった。言った瞬間に門前払いが確定するのが、怖かったのだ。

「…まあ、話は明日聞くからここではあまり詳しくは聞かないが…何か問題でも起こしたのか?」

問題といえば問題になるが、そうじゃないといえばそうじゃない。それに、下手に話すと見破られてしまいそうで怖い。だから、質問されても無言でいるしかなかった。

「日向」

お父さんの口調が、諭すようなものに変わった。冷や汗が背中を伝う。

「別に隠しごとをするな、とは言わない。日向だってもう大人だから、隠しごとの一つや二つくらい、むしろないと不自然なくらいだ。…でもな、これだけは言っておきたい」

長年一緒にいたから、分かっていた。お父さんがこんな口調になる時は…たいてい、怒っている時だ。今は優しくても、みるみる内に豹変していく。

「…相談したいなら、どうして隠すんだ?」
「…」
「相談するのに、情報を一部しか話さないで、都合の悪い所は隠すなんて…そんなのは、ひきょう者のやることだ」
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