一夜くんとのアヤマチ。
分かってる。私がやってるのは間違ったことだって、そんなのは私が一番分かってる。

「…聞きたいのは理由だけだ」
「…」

電話口だから、黙っていたらいけないということは常識的に考えたら当然の話だった。だけどそれでもなお、私を取り巻く環境は私を黙らせるのには十分すぎた。

「日向!」

お父さんの声は、ついに怒鳴り声に変わった。

「隠すなら隠す、話すなら話す、はっきりしろ!」

一夜くんの顔が不審げなものに変わる。…こんな所でこんな会話が聞こえたら、一夜くんは「交渉しても無駄だ」って言うかもしれない。ちょっと冷めたような所がある一夜くんのことだから、きっと一方的に怒鳴られると尻込みしてしまうだろう。

「…もういい」

怒鳴ってもなお私が黙っていたからだろうか、お父さんは最後に一言こう言い放ち、電話を切った。

「親子の縁は切らせてもらう」

不通音が、虚しく無機質に私の鼓膜を震わせる。

「…かなり怒ってたな、日向のお父さん」

首の後ろを掻きながら、一夜くんはため息をつく。

「…ゴメン、聞こえちゃってたよね。お父さん、怒ると声大きいから…」
「無理そう」

私の言葉を遮って、一夜くんが一言、ポツリと呟く。

「えっ…?」
「あんな剣幕で来られたら、できる話もできなくなる」
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