一夜くんとのアヤマチ。
「…日向ちゃんの言いたいこと、何となく分かる気がする」

それでも先輩は、私をまっすぐに見てくれていた。私は後ろを向いていたけど、視線は確かに感じられた。私の傍にいてくれた。先輩が分かってくれているなら、私は毒でしかないのに。

「…私だって、同じように思ったことあるもん」

先輩に促されるまま、ソファに座る。そして先輩自身も、私の隣に腰を下ろした。

「私、恋愛経験少なくてね…。初めて恋したの、社会人になってからなの」

プラネタリウムを見るように空を見上げ、先輩は話し始めた。

「養護教員になる前、看護師をしてたの。割と大きめの総合病院でね。…ドラマとかでよくある話なんだけど、医者と看護師が付き合うって…聞いたことない?」
「…まぁ、ありますけど…」
「最初の恋は、それだったの。イケメン医師って評判だった内科の先生に、しばらく片想いしてた」

白衣を着たイケメンのお医者さんを陰から見つめる若き日の先輩の姿が目に浮かぶ。

「それでね、ある日、思い切って告白してみたの。照れ臭かったんだけど、ストレートに『好きです』って。…そしたら、オッケーしてくれた」

一瞬、言葉が詰まった。そしてその時に、私は先輩をもう一度見ることに成功した。

「でもね、実はその先生、もう奥さんがいたの」
「えっ…」
「俗に言う不倫ってやつだった。それを知らないまま、付き合っちゃったの」

ゴクリ、と唾を飲んだ。

「付き合い始めて二カ月くらいした時に、その先生から電話がかかってきてね。詳しい言葉までは覚えてないんだけど、私と先生の関係が奥さんにバレちゃったみたいなの。それで、もう会えなくなったって言ってた」
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