一夜くんとのアヤマチ。
「先輩…」

ケータイを耳から離すと、先輩は昨日と同じように、首を横に振った。

「どうしよう…もう時間なのに…」
「…ひとまず、メールはしておくわね。もう日向ちゃんのお父さんの所にいるって」
「はい…」

家を訪ねることになっていた時間、五分前。一夜くんからの連絡は、まだなかった。それどころか、電話にも一切出ない。俗に言う、音信不通だった。

「まさか…何かの事件に巻き込まれたりしてないわよね…」
「ちょっ、そんな物騒なこと言わないでくださいよ…。戻ってくるって言ったの、先輩ですよ?」
「まさかの話よ。…もしかしたら、もうすでに中にいたりして」

先輩がお父さんの家があるマンションを指さす。駅に近いのが幸いして、場所は分かりやすいことこの上なかった。

「とりあえず、二人だけでも行ってみよう。遅れちゃうと目も当てられないし」
「はい…」

普段より少し早い鼓動が、嫌な予感を告げていた。

「…ふぅ…」

電話であんな話をされた翌日だ。私が訪ねても、門前払いを食らうだけかもしれない。

「じゃあ先輩、よろしくお願いします」
「うん」

古典的な方法だけど、これしか思い浮かばなかった。先輩はインターホンを押すと、鼻をつまんだ。

「はい」

インターホンのスピーカーから、お父さんの声が聞こえる。

「宅配便で~す」

…こんな漫画みたいな方法が通用したのは奇跡と呼ぶべきか。お父さんはドアを開けたその瞬間は、何の疑いも持たない顔をしていた。
< 86 / 120 >

この作品をシェア

pagetop