一夜くんとのアヤマチ。
「どうしたんですか?」

先輩の言葉の後、すかさずお父さんが先輩の方を見た。

「いえ、何でもありません」

この時、お父さんは先輩の思っていることに気づいていたんだろうか? 今となっては、真相は分からない。

「…それで…何なんだ、話って?」

イスに座りながら、お父さんが問いかける。

「…えっと…」

ダメだ。またこれだ。今こそ全てを話さなきゃいけない時なのに、要件を表す言葉は一文字も音にならない。

「…あの…私…」
「一夜はどこですか?」

空気が、凍てついた。全ての音が消え去り、それゆえに五月蠅さを感じずにはいられなかった。

「…誰ですか、それ?」
「そのわざとらしい芝居、いりませんから」
「わざとらしいも何も、本当のことですよ。何なんですか、あなたは? さっきからずけずけと…」

お父さんは明らかにいら立っていた。が、同時に焦燥も見えていた。

「日向さんの仕事上の先輩です。…あ、それと…」

そして先輩は眼光鋭く、こう言い放った。

「鴫城一夜の母です」

先輩のまなざしは確かで、同時にお父さんを揺るがせるには十分すぎるものだった。
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