一夜くんとのアヤマチ。
「追いかけてこなかったのは、心配してないからじゃない。気持ちを分かってあげてるからなんだ」
「…どういうこと…?」
「下手に追いかけるのは逆効果って思ってた、って言ったほうが分かりやすいかな?」

それでもあまり分からずキョトンとしていると、鵜児くんはこう続けた。

「周りの人を巻き込んじゃったって、そう思ってるんでしょ? それを二人も分かってるんだとしたら…一人にしておいた方が落ち着いてられるって、そう思ったんじゃない?」
「…」
「でもさ、いつまでも一人で塞ぎこんでるわけにもいかないでしょ?」

私の視線と、鵜児くんの視線が一致する。私はあの頃から変わったかもしれないけれど、鵜児くんの目は、私のことを好きでいてくれた、あの時の鵜児くんのままだった。混じりけのない気持ちで言ってくれているということが、よく分かる。目は口ほどに物を言うとはよく言ったものだ。

「行こう。連絡はしておくから」
「…うん」

私の手を包んでくれていた鵜児くんの手が右手だけになり、左手は電話を操作し始めた。

「電話、するね」

電話を耳に当てる鵜児くんの姿が、とても頼もしく感じられた。何でも相談できる人って、多分こういう人のことを言うんだろう。

そんな人の押してくれた背中は、少しずつだったかもしれないけれど、確実に進んでいた。

「先、入ろうか?」
「…大丈夫。私のやったことだもん。私がケリをつけないと」

でも、ちょっと優しすぎちゃうんだよね。家の前でそんなことを心で呟いてみたら、少し笑えた。

実家はもう警察が出入りする事件現場となったため、一夜くんと先輩は鴫城家にいた。敷居をそこまで高く感じないのは、親密な関係だからだろう。
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