一夜くんとのアヤマチ。
「…ふぅ…」

一つ、呼吸をする。そして、ゆっくりとインターホンに指を乗せる。そして、力をかける。

「は~い…」

五秒ほどすると、ドアから家の中の光が漏れてきて、そこに先輩が立っていた。

「日向ちゃん…」

小走りで私の傍に来る先輩に、私は頭を下げた。

「ごめんなさい! 先輩、私…」

だけどその言葉は序盤で打ち切られた。私を優しく包んでくれた、先輩の体によって。

「何で日向ちゃんが謝るのよ。悪いことなんてしてないじゃない。それに、私はこう見えても日向ちゃんの先輩だよ? 言いたいことくらい、分かってるから」

巻き込んじゃってごめんなさい、って言いたかった。

勝手なことしてごめんなさい、って言いたかった。

だけど、それは声にならなかった。声を出そうとすれば、それは全て嗚咽となってしまう。

「うぅっ…えぐっ…」
「ほらほら、そんなに泣かないの。赤ちゃんが産まれた時のために、涙はとっておかないと」

…分かってないです、先輩。

そんなこと言われたら、もっと泣いちゃうじゃないですか。

「じゃあ、僕はこの辺で」

後ろで聞こえた鵜児くんの声。それに続いて足音が聞こえたが、先輩はそれも止めた。

「待って」
「何か用事ですか?」
「…今、一夜いないの。追加の事情聴取に呼ばれててね」
「はあ…それで?」
「…日向ちゃんにも本当のこと、知っておいてもらいたくて」
「…えっ?」

何やら意味ありげな言葉に顔を上げる。

「日向ちゃん、時間ある?」
「ありますけど…」
「…ちょっと、話があるの」
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