~Lion Kiss~
彼女の言葉を聞きながら、脇腹を押さえた來也の手を見て私は眼を見開いた。

細いナイフの柄が來也の指の間から飛び出していて、どう見ても突き刺さっている。

シャツは赤く染まり、ピタリと皮膚に貼り付いていて、私は息を飲んだ。

嘘、こんなの……!

「救急車……!」

私が身を翻そうとするのを、來也の声が止めた。

「ダメだ、騒ぎになる。もうじき社員が帰るから、それを見計らって青木は家に帰れ」

恵美理さんが涙に濡れた眼で來也を見た。

「でも、」

「いいから旦那が迎えに来たら帰るんだ。このことは他言無用だ。それからマヒル、俺のスマホで総二郎に電話してくれ。数分前にかけたが繋がらなかった」

私は頷くと來也のスーツの内ポケットを探った。
< 378 / 444 >

この作品をシェア

pagetop