~Lion Kiss~
「……は、るとさん」

治人さんは、私を見てわずかに眉を寄せると、エレベーターを降りて私の腕を引き、壁際へと導いた。

「顔が真っ青じゃないか。何があったの」

心配そうに私の様子を窺う治人さんを見て、思わず涙声になる。

「來也がオフィスで怪我をしたの。ペーパーナイフが脇腹に刺さって……。騒ぎになるから救急車は呼ばないって。総二郎さんのお兄さんの病院に」

「マヒル、落ち着いて」

私は耐えきれなくなって治人さんを見上げた。

「どうしよう、治人さん」

「相澤はどこ?」

「このフロア」

私がそう告げると、治人さんはスマホを取り出してどこかへ電話をかけ始めた。
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