First Kiss〜先生と私の24ヵ月〜
「ちょ、ちょっといろは。なんでそんなに軽々登ってるわけ?!」

するすると蜥蜴のように木に登る私を見て、恨めしそうに紅は言う。

私はにやりと笑うと、

「キャリアの違いでしょ」

と、どんどん太い枝に向かって登り進めていく。
紅はくっそー、と言いながらローファーを脱ぎ捨て、一生懸命登ってくる。

「やったー、一番乗り!」

私が一番太くて安定した枝にたどり着くと、紅は、

「ったく、いろはは野性的なんだから」

「何か言った?」

「いえ、何も」

私は枝の上から空を仰いだ。

空にはちぎれた雲が浮かんでいて、その雲の間から月光が照らしていた。
その神秘的な光景に涙が出そうなほど、感動してしまって。

目から、もう涸れたはずの涙が溢れてきた。


ハル、私、ここにいるよ。

まだ、ハルのこと、思っているよ。

ハルも、私を思ってくれている、そう信じて、いいんだよね?


やっとのことで私の元まできた紅は、

「あー、本当に疲れた。飴玉一個じゃ力出ないって」

私はその言葉を聞いて、鞄の中から、おにぎりを取り出した。

ここに来る前にコンビニで買ったおにぎりだった。

「お腹空いてるなら、これあげる」
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