First Kiss〜先生と私の24ヵ月〜
私はうつむきながら泣き出してしまった。

お母さんが怖いこと。

頭が悪いことで散々家族になじられてきたこと。
塾に行って勉強する気になれないこと。

なんだか生きている意味がわからないこと。

つたない言葉なのに、春雪は笑みを絶やさず聞いてくれた。

初めてだった。

私の話を真剣に聞いてくれる大人は。

春雪は何も言わなかった。

あまりにも沈黙しているので、

「春雪はどうして私に声をかけたの?」

「ああ、なんかいろはは死んだような目をしていたから。昔の俺にダブって見えた」

私はその一言が嬉しくて、胸に手を当てた。

「どうしたの?」

「その言葉が嬉しいから大事に胸にしまっておくの」

春雪は私の頭をくしゃっと撫でると、

「いろはは素直だな」

と笑った。

また胸がちくっ、とした。

なんだろう、この気持ちは。

今まで感じたことがない。

わからなくて、なんだか怖い。


「ま、とりあえず塾のあるところまで送るよ」

私は春雪の言葉をさえぎって、

「それよら、さっきピアスを買ったの。穴をあけたい」

「いいのか、そんなことして」

「うん、もうお母さんの言うこと聞いてるの、嫌になったから」
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