First Kiss〜先生と私の24ヵ月〜

S1 夕暮れの月

父親の運ばれた病院から出てすぐ、私は春雪に電話をかけようと思った。
でも手が震えてなかなかボタンが押せない。

やっとの思いで押したのは、なぜかコータの番号だった。

トゥルルルル、トゥルルルル。

機械の規則的な音がした。

4回、5回と鳴るけれどなかなかコータは出なかった。

私が諦めかけたとき、その音がぶつっと切れた。
「もしもし?いろは??」

コータの少し高めの声がした。

驚いて声が裏返っているのかもしれない。

私は返事ができずに、ただしゃくりあげる声だけが電話口で響いた。

それを聞いたコータの声色が変わった。

「どうしたんだよ、いろは。何かあったのか」

声が出ない。

「今、どこだ。俺、迎えに行くから!!」

その真剣な声にさらに涙がこぼれた。

ヒック、ヒック。

今ね、病院の帰りなの。
おとーさんがね、倒れてちょっと一人暮らしすることになって。

私がそういうと、コータは、

「親父さんが倒れて一人暮らしするのか??なんで病人が一人暮らしを??」

そう聞き返されて、自分の日本語が支離滅裂だと気づいた。

ううん、そうじゃなくて。

言い直すのも億劫なほど、私は疲れきっていた。
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