First Kiss〜先生と私の24ヵ月〜

S3 薬指の真実

私は放課後、職員室にいた。

これから学校の中を井上先生と歩くのだ。

職員室にはたくさんの先生がいて、岩沢と井上先生を探すのは少し苦労した。

「すみません、岩沢先生と、井上先生いらっしゃいますか」

私が入り口に近いところに座っている教師に尋ねると、その教師は窓のほうを指差した。

私は静かに二人に近づく。

職員室がざわめいていて、二人は私が近づいてきたことに気づいていない。

「…その指輪ははずしておきなさい。生徒が騒ぐと、面倒だから…」

途切れ途切れ、会話の端々が聞こえてきた。

えっ、指輪?

私にはうまく聞き取れなかった。

でも指輪、という言葉だけは耳に残っていたので、井上先生の指を見る。
繊細そうな細い指。

薬指に自然と目が行く。
ティファニーのシルバーリングが光っていた。

「まぁ、婚約者がいるのに、隠さなくちゃいけないのもかわいそうな気もするけど」

岩沢の声が頭の中をめぐる。

婚約、者?

井上先生、婚約者がいるの?

私は井上先生のほうを盗み見る。

表情を崩さず、黙ってうなずいている。

婚約、指輪。

確かに、先生はかっこいいよ。

だって春雪なんだもん。
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