First Kiss〜先生と私の24ヵ月〜
涙目になりそうになりながら、私は振り返った。

春雪…。


思わず名前を呼びそうになってこらえた。

「君、確か岩沢先生のクラスの子だよね」

私は少し違和感を覚えた。

確かに私は見た目が5年前とは変わってしまった。

でもそれはたいしたことではないし、普通なら私を私と認識してくれるのではないだろうか?

昔、ピアスをプレゼントした小学生だ、と。

でも春雪は全く私に気づかない。

「君、名前、なんだっけ」

「…黒川いろはです」

「黒川さん、か」

名前を聞いても表情一つ変わらない。

本当に初めて会った人のような態度だった。

「俺、今から帰るけど、傘、持ってないなら入れてくよ」

春雪は笑顔で言った。

その笑顔が優しくて、懐かしくて、愛おしくて。
また涙がこぼれそうになった。

「いいんですか?」

「別にかまわないよ」

そういうと春雪は傘を広げた。

男物の大きな傘だった。
「ただ、俺はちょっと寄らなくちゃいけないところがあるから」

私は黙ってうなずくと、春雪の傘の中に入った。
雨に感謝する気持ちと、私を思い出して欲しい、という気持ちがない交ぜになっていた。
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