First Kiss〜先生と私の24ヵ月〜

S6 お母さんと私

仕方なく私は春雪と一緒に家に向かった。

たった数メートルの距離が永遠にさえ感じた。

足取りは重く、何か錘がついているようで、私は春雪と並んで歩けなかった。

春雪は私を振り返ることもなく、淡々とした足取りで雨の道を分け入る。
私に春雪は傘を貸してくれて、自分は濡れながら歩いていた。

やっぱり、春雪は優しいんだね。

あの頃と、優しさは全く変わってない。

変わってしまったのは、私とあなたを取り巻いている世界。

私は春雪にもらったピアスに触れながら、ため息をついた。


春雪が、あきは姉ちゃんの、婚約者。

春雪が、あきは姉ちゃんの婚約者。

春雪があきは姉ちゃんの婚約者。


呪いの呪文のように私の頭の中で、言葉は形を変え、占拠する。

私は何度頭を振ったことだろう。

めまいがするほど、激しく振っても、消えない。
本当に、呪いの呪文だ。

家の前に着くと、春雪はハンカチを取り出し、体を拭うとインターホンを押した。

すると、中から機嫌のいい母親の声が聞こえてきた。

ガチャッ。

鍵が開き、母親が顔を覗かせた。

いつもより、化粧を濃くした、女の顔。

美容院に行ったのかキチンとセットされた日本髪。
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