First Kiss〜先生と私の24ヵ月〜
改まったときに、必ず着る、藤色の着物。

それを見て、私はまた現実を思い知らされるのだ。

「井上さん、びっしょりじゃないですか?!」

母親は驚いたように声を上げた。

そして、春雪を玄関先に招き入れると、タオルをとりに部屋の奥にかけていった。

私のことは、いつものことながら、視界にすら入っていないようだった。

タオルをもって戻ってきた母親は、春雪の隣に並んでいる私に、

「いろは、なんで一緒に帰ってくるなら井上さんをこんなにずぶぬれにさせておくの。本当にあんたは気がきかないんだから」

母親は春雪のいる前で、私をしかりつけた。

私は恥ずかしさで顔から火が出そうだった。


お母さん、やっぱりあなたは私のことが気に入らないのですね。

私は、あなたの娘に生まれてきたことを、どれだけ後悔したでしょう。

でもいつかは愛してくれる、って信じていた。

ありのままの私を受け入れてくれる日が来る、と。

だけど…それは叶わない夢なのですね。


春雪は私をかばって言った。

「いえ、妹さんとは本当に玄関先で偶然会ったばかりなんです」

「そうなんですか。この子は昔から親の言うことを聞かない子で」
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