First Kiss〜先生と私の24ヵ月〜
春雪は何も言わずに、薄い笑みを浮かべている。
私が悔しくて下唇をかんでいると、電話が鳴った。

母親は、

「ちょっと待っていてください」

と言い残し、電話のほうへかけていった。


私がうつむきながら、靴を脱いでいると、頭に何かがひらりとのった。

それはとても温かく、柔らかで、懐かしい記憶を呼び起こした。

春雪の、手、だった。

春雪は手で私の頭をぽんぽんと2回叩くと、

「明日、学校案内してくれよ、学級委員長さん」
私が驚いて、顔を上げると、春雪は人懐っこい笑みを浮かべた。

思わず赤面する。


ああ、この人はあの頃と何も変わっていない。

私の心の痛みを感じ取り、癒し、慰めてくれる。
ただ、私を覚えていない、それだけ。

でも、それだけのことが、とても悲しかった。
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