血だまりの少女
「背教者って“忠実でない”とか“教えに背く者”って意味だから、要は“裏切り者”って事だね」
「そうだとすれば、そんな話が隠れてるのは一枚しか思い当たらないわ」
その絵画の名前を出さなかったが、私たちは同時に右側の壁を見上げた。
『最後の晩餐』である。
「赤野君は何でも知ってるのね」
「何でもは知らないよ。他の絵の事はほとんど知らないし、この絵についても詳しい訳じゃないけど、有名でしょ?」
「まぁそうね。絵に興味がなくても、一度は聞いた事のある話よね」
イエスと12人の使徒が描かれている大きな壁画。
本物はイタリアのミラノにあるサンタ・マリア・デッレ・グラツィエ修道院の食堂の壁画である。
『あなた方の内、1人が私を裏切ろうとしている』とイエスが断言し、12人の使徒が、誰だ誰だと顔を見合わせている。