君とのキスの意味
「いやいや・・・」と手を振りながら、本当によかったと安心した。

「加賀君や理子にも、塚本さんに『ありがとう』と伝えてって言われました。塚本さんに伝える事ができて、よかったです」

そう言うと、白石さんは一瞬目を伏せた。すぐに目線を上げると、俺の目を真っ直ぐに見る。

「私、一つ賭けていたんです。もう一度、塚本さんから連絡をもらったら・・・もう一度塚本さんと会う事ができたら、伝えようって・・・」

俺は、一瞬息を止めた。この緊張感というのか、久々に味わう気がする。

学生の時は、たまにあった。最初は、何だかよくわからず、その空気に告白しようとする相手よりも、俺の方が呑まれていた。

少しは、大人になったつもりだが・・・

白石さんは、俺をずっと見つめたまま、頬が少し赤くなっている。瞳は少し潤んでいるが、何かを決意したように口唇は、キュッと結んでいる。

その口唇が動いた時、俺はその言葉をきちんと聞かなければいけない。例え、その想いに答える事はできなくても・・・

やっぱり白石さんは、きれいだと思う。笑っていても、やつれていても、こんな風に何かを決意した凛とした顔をしていても、とてもきれいだ。

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