君とのキスの意味
ハンドルを握りながら、時折、沙映に目線をやる。

「よく、道を訊かれるし。『卵はどこにあるかしら?』て、スーパーで訊かれた事もあるし。この間なんて、困っちゃった」

その時の事を思い出したのか、彼女は苦笑いを浮かべた。

ある日の夕方、仕事を抜けて、近くのキャッシュコーナーに行った。

すでに中に人がいたので、外で終わるのを待っていた。

しばらくして、キャッシュコーナーの扉を開けた、70才は過ぎているであろうおばあさんに「ちょっとちょっと」と手招きされる。

何?とは思ったが、おばあさんに襲われる事はないだろうと、とりあえずキャッシュコーナーの中に入った。

「お金をおろしたいのだが、操作の仕方がわからない」というおばあさんに、「ここに、こう触ればいいんです」なんて声をかけながら教えていった。

暗証番号を入力する画面になった。

「自分で決めた4桁の番号を入れるんです」そう言ってから、キャッシュコーナーを出るつもりだった。

ところが…

「暗証番号ね。2…」

「ちょっと待ってください!!」

慌てておばあさんの言葉を止める。

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