君とのキスの意味
相手も、俺をじっと見ている。もしかしたら、俺と同じで思い出そうとしているのかもしれない。

「雪乃!」

男の呼び掛けに、ビクッ!として、その声の方を見る。

思い出した!白石 雪乃(しらいし ゆきの)さん!仕入先の受付の子だ。フルネームを覚えているのには、理由があって・・・

白石さんを呼んだ男がそばまで来ると、俺に気付き、足を止めた。

走って来たのだろう。少し乱れた呼吸を整えている。

「雪乃、もう一度ちゃんと話をしよう」

俺の事を気にしながら、白石さんに言う。

痴話喧嘩?俺、ここにいない方がいいよな。

「話す事なんて、もうない!!」

強い口調に、思わず白石さんを見る。

青ざめて、唇が震えている。そんな表情をしていてもきれいだけど、なんか、やつれているようにも見える。

「そんな事言わずに、落ち着いて・・・」

「やめて!」

男の言葉を最後まで聞かずに、目尻を吊り上げて、白石さんが叫ぶ。

受付にいる時の白石さんは、いつもきれいな微笑みを浮かべていて、当然、そんな表情を見た事もなく・・・

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