君とのキスの意味
男が白石さんの手首を離したので、俺も、掴んでいた手の力を緩める。

「白石さんとお話があるのなら、自分も同席させてもらいます。その方がいいよね?白石さん」

男の目を見たまま話していたが、最後に白石さんに視線を移す。

白石さんは、コクンと頷く。掴まれた手首を、もう一方の手で擦っている。

「いや、今日は失礼する」

もう一度男に視線を移すと、それだけ言って踵を返した。

しばらく男の背中を見送っていたが、ふと白石さんを見る。

顔色は、もう青いというより、真っ白な感じだ。元々色が白いのに、なんだか病的に見える。

目も虚ろで、何も見ていないように見える。

白石さんに聞こえないよう、小さく小さく溜め息を吐く。

正直、会社の仕入先の社員の面倒事になんか、関わりあいになりたくない。

でも、白石さんの様子を見ると、とても一人になんかできない。

先程の男も、納得したようには見えなかったから、また戻ってこないとも限らない。

「白石さん」俺が呼びかけると、ハッ!として俺を見た。

「そこの本屋で、コーヒーでも飲もうか」

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