君とのキスの意味
「それまで彼と会う時は、かなり気を遣っていたんです。知り合いに会わないように。でも別れ話の時は、時間がない彼に合わせて、会社の近くのお店で会ってしまったんです」

それでも、賑やかな通りから外れた場所を選んだつもりだった。

「同じ会社の人に見られてしまったようで・・・皮肉ですよね。それまで大丈夫だったのに、別れ話をしている所を見られるなんて」

白石さんが自嘲気味に笑った。俺は、ただ黙って聞いている事しかできない。

『出世の為に捨てられた女』なぜか、それだけが社内で囁かれた。

「近い将来、取引先の実力者になりそうな人ですもんね。それに・・・」

白石さんは、肩を竦めた。

「子どもの時から私、同性に嫌われやすくって・・・会社でも、仲のいい人は限られてました」

そんなに多くない社内の友人も、彼との事を秘密にしていた事で、距離をとられるようになってしまった。

「近いうちに話せる日が来る!て思っていたんですけどね・・・なんかあの時は、全てがうまくいかないように感じてました」

その後白石さんは、体調を崩してしまう。「こんな事に負けたくない!」がんばろうとすればするほど、追い込まれていった。

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