君とのキスの意味
思わず眉根を寄せる。これからみんなの所に戻るのに、水野君のこんな表情( かお )を見せるのか?

握っていた水野君の手首を離す。

「その顔は、よくないな」

右手の人差し指の背で、水野君の頬の涙を、そっと撫でる。

水野君としばらく見つめあい、堪えきれなくなって、目を逸らした。

熱を逃すように、フッと息を吐くと、水野君が持っていた野球帽に気付いた。彼女に目深に被せる。少しでも、表情( かお )が見えないように・・・

「その顔は、人に見せない方がいい」

俺だけが、知っていればいい・・・

「みんな待ってる。行こう」

水野君の歩幅に合わせるように、ゆっくりと歩く。

彼女も静かについてくる。

何も話さないけど、とても穏やかな空気が流れているように感じた。

手を繋いでいる訳でもないのに、水野君の存在を、とても身近に感じる。

このまま、もう少し・・・

そんな事を思っていたら、休憩場所となっている芝生広場まで来てしまった。

広場の前に立っていた女の人が、こちらを見た。

「陽平さん!」

白石さんが、小走りで近付いてくる。

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