ベイビー クライ
車内は無音だから、あたしの言葉がやけに空間に残る。
そんなはずはないのに、ずっとエコーして止まないような気さえする。
「なんだ、お前それ言わなかったから拗ねてんのか」
「す、拗ねてるとかじゃなくて!先生、何も言ってくれな」
「お前にそう呼ばれるの、結構グッとくるんだけど」
運悪く、赤信号。
交差点で、ハンドルを抱き抱えるような体勢を取った先生は、首を傾げてこちらを見た。「もう、聞けなくなるんだな」
『ま、その呼び方ももう少し、聞いていたい気もすっけど』
先生――
「親が地元で小さい学習塾やってんだけど、オヤジが倒れて、な」
行き先はわからないけれど、学校とは正反対の道を走らせていた。
薄暗くなり始めた車内。先生の横顔を、必死で見つめた。
「俺継ぐかなーとか思って。いずれは、ってな話だったし」
随分とあっさり、白状した。本当に、あっさり。暗がりに、感情さえ見失う。
「…先生は、平気ですか」
「……」
「今までみたいに学校で会えなくなっても、先生は嫌だとか思わないんですか」
「それがなんだ」