ベイビー クライ
幼げに、ぷっくりと膨らませた頬が可愛いらしい。
「ほれ、親父が待ってんぞ」
「ん、じゃあな!つばさ」
玄関を出る直前までバイバイする基樹くんに、あたしも手を振り返す。
小さな姿が見えなくなってから、あたしたちは事務室に入った。
事務室は、喫煙室としての役割を果たしている。講師たちの職員室は別にあって、ここを使う人はほとんどいない。先生と、笹原先生くらい。
「あたし、一番人気の笹原先生がどの人かわかりましたよ」
慣れた手付きで戸棚から取り出したふたつのカップにコーヒーを注ぐ。
つまらなそうに、すでに暗くなった窓の外を眺めていた先生に手渡した。
「あんな無気力講師のどこがいいんだろうな」
「無気力…、なんですか?」
「女の気持ちはわからねーもんだ」
「それって、嫉妬ですか?」
つい笑いがこもってしまう。
コーヒーで喉を潤した先生は、外方を向いてため息を吐いた。
「先生だって小学生に人気じゃないですか。特に基樹くんなんて、すごく懐いてますし」
それにあたしは、先生が誰よりも一番好き。
どんな人も、先生には到底かないっこない。