ベイビー クライ

「…っ」
「がっつくガキみてーに必死だよ」


避けようなく息が首筋にかかって、仰け反ったあたしの背中を先生が支える。

間近で見たら、先生は笑ってなどいなかった。いつものけだるい眼差しには、あたしを捕らえて放さない、病み付きになるぬくもりが宿されていて。


「…だったら、教えてください」
「ん?」
「先生が、思ってること…」


男を理解しなくていい。

あたしが知りたいのは、カップから上がる湯気のように掴み所のない、先生の気持ちだけ。


「お前そろそろさ、俺のこと、名前で呼んだら?」
「え、じゃあ…、尚道」


躊躇いながら名前を口にしたあたしの脇で、「っあー、すげぇ格好悪」乱暴にカップを机の上に置いた先生は、頭をガシガシと掻いた。


「ちなみに基樹の苗字は千代田だから」
「そ、そうですか。初耳です」
「俺以外の男は名前で呼ばなくていい」
「……、」


先生が小学生みたいですよ、って言いたいのは山々だったけど、あたしは口をつぐんだ。
正確には、言えなかったんだ。正解したあたしには、キスのご褒美が待っていたから。



END
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