ベイビー クライ
一向に染み渡ってゆかない水玉模様を見て、本当はあたし、心の奥まったところでずっと、こうなることを予測してたんじゃないかな、とさえ思えた。
高田くんがその日から付き合いだしたのは、千紗だったのだ。
いっそ夕日の向こうにでも、あたしの想いと一緒に投げてしまおうか。
行き場のないこの感情から解放されるなら、このチョコレートが渡る相手がなにも人でなくてもいい。
そう思ったのに
『渡せ。まずはそっから片付けてやる』
夕日の光をひとり占めした、背の高い人が、あたしに手を差し伸べた。
いつもの険しい顔付きとは違い、頬を緩め、柔らかい眼差しをこちらに向ける。
『俺にしとけば?そうやって泣かさねぇからよ』
今までの経験とは違う、恋の楽しさも苦しさも全部、教えてくれるんだって思っても、いいんだよね?
ね、先生――?
「……るが、駿河つばさ!」
教壇から届いた怒号は、あたしの意識をはっきりさせる。
窓の外に向けていた目を、慌てて声の方にやった。
「俺の授業で寝るなんていい度胸だな」