ベイビー クライ

黒板を背にした柏村先生が、よれよれの数学のテキストを更に軟らかく丸めて、ポンポン手のひらで叩いている。

けだるいながらに剣幕、といった表情で。


「すみません、でした…」


謝ってはみたものの、あたしは眠ってなどいない。
ただ、校庭の周りを囲むように植えられた桜の木につぼみがつき始めていて、その光景につい見入っていただけだ。

机の上に頬杖をついていたから、正面から見たら、眠っていたように見えるのかもしれない。


濡れ衣に、反論したい気持ちもあったけれど――「今のとこテストに出す。脅しじゃねぇぞ」柏村先生は黒板を消しながら言うから、教室中が騒がしくなってしまって、あたしの声は完全に出遅れてしまう。

やばい、全然聞いてなかった。
まああたしの場合、黒板に白で、いくらはっきりと数式を書いているにしろ、その意味がわからないのだけれど。


ひとしきり生徒たちからのブーイングを聞き終えた柏村先生は、腕時計に目を落とすと、テキストを閉じた。


「昼だし、早いけど終わっとくか。…駿河、放課後数学準備室来いな」
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