密室の恋人
エピローグ
「お前、本当に船舶の免許取る気か」
そう蒼汰に訊かれ、操縦席の後ろの座席に座っていた凛子は、
「はい」
と答えた。
結婚式のあと、二人であの船に乗って、無人島に向かった。
手近だが、一応、新婚旅行だ。
凛子にとっては、海外旅行などより、余程嬉しい。
あれからずっとサボっていた式の準備などで忙しかった。
ようやく二人きりになったせいか、蒼汰は今まで口にしなかったことを口にした。
「あのときさ。
言われたんだよ、陸人に。
俺が凛子を好きなわけじゃなくて、とり憑いてる自分が凛子を好きだから、俺も好きになったんだって。
だから言ってやった。
俺はあの間抜け女が入社式でくしゃみが止まらなかったときから、見ていたんだって」
「あの、何故かあまり嬉しくありません……」
力なくそう言うと、蒼汰は笑う。
『落とせるわけがない』
そうあのとき、陸人は言った。
『君を僕と同じ目に遭わせられるわけがない。
君に僕のように、霊として彷徨って欲しいわけじゃない。
生きている凛子が好きだから』
と――。