空に舞う桜
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「……ざきさん、山崎さん!」
名前を呼ばれて、ハッと我に返った。
俺の自室で書類仕事をしていた島田が、心配そうに顔を覗き込んできた。
「大丈夫ですか。
ここのところ、ずっと上の空のようですが……」
「すまない、気にするな」
「しかし、近頃働きづめのようですし、お疲れでしたら今日はお休みになった方がよろしいのでは?」
「大丈夫だ」
俺は止まっていた手を動かし、筆を走らせた。
この書類を前にして、俺は何を呆けているんだ。
(たるんでいるのだろうか……)
今度、沖田さんに稽古をつけてもらおう。
しかし……あの日の事が、まだ頭から離れん。
怯えた佐渡の顔。
あんな表情をさせるつもりは全くなかった。
それどころか、涙さえ拭ってやることができなかった。
ただでさえ、彼女には刺激の強いことばかりだというのに。
俺は、あの時の記憶をたびたび追ってしまっていた。
その度に、佐渡の顔を思い浮かべて胸が締め付けられる。
(それに、あの時の声は一体……)