空に舞う桜
山南敬助さん。
私も、ここに来るまでこの人の事は知らなかった。
新選組の総長さん、っていう土方さんよりも偉い人みたい。
でも、この間お仕事から帰ってきた時に、左腕にケガをしてしまったらしい。
あの時は、皆驚いてたな……
それだけ、強い人ってことなんだろう。
皆の反応を見ただけでも、山南さんがケガをするのは、あり得ないことなんだって分かったもん。
「そういえば、山南さんと1対1で話すのは、初めてかも」
少しドキドキしながら、山南さんの部屋の障子に手を掛けた。
「失礼します、佐渡です。
山南さん、いらっしゃいますか?」
「ええ、どうぞ」
優しい声……
「失礼します」
そう言って、障子を開けると、山南さんは机に向かっていた。
首から、白い三角巾を下げて。
「珍しいですね、君がここを訪ねるなんて」
「山崎さんから、お薬を預かってきたんです」
「薬、ですか?」
廊下に置いていたお盆を、部屋の中に入れた。
お盆の上には、痛み止めと湯呑み。
すると、山南さんが振り返った。
「痛み止めです」
「そうですか。
ありがとう、佐渡さん。
そこに置いておいてくれますか」
「はい、分かりました」
ニコッと笑った山南さんにつられて、私も少しだけ微笑む。