僕はそれでも恋をする
盗撮から始まる出会い


「あ、ニラ子おいでー」


季節は春。
中学2年生。


広い校庭の翠に囲まれ、ぽつんと座る黒い猫。


そして、その猫に手を差し出す小さな1人の中学生。


この画は、なんて言うんだろう。


そう、例えるなら……


――――天国にて。


『カシャ』


「……え?」


「……え」


あ、私とした事が……。


盗撮しようとしたのに、音でバレてしまった。


その瞬間、猫を抱えた少年が青ざめた顔をする。


「な、なななんでカメラこっちに向けて撮ってるの!?」


どうしよう。これはまずい。


完全に第一印象がやばい人だと確定されてしまう。


「ち、違うよ! その、猫をね! 撮ろうと思って……!」


しかし携帯に写るのはほとんど少年。
猫はおまけの如く小さく耳だけ写っている。


「へ、猫写ってないよね!? これ猫耳しか撮れてないよ!!」


少年は相当恥ずかしいのか必死に消して消してと促してくる。


……可愛すぎる。


「いや、あのね、ちょっと手が滑っちゃって……」


「おかしいよ! 手が滑ったってどんだけブレ補正機能優れてるの画質良すぎて気持ち悪い! 携帯貸してっ」


「へ、あぁダメ!!!! せっかく撮ったのにィ!!」


携帯をギュッと胸に抱えて少年に渡さない。


絶対に渡さない。


こんな天使の写真が撮れた奇跡的瞬間を逃せるわけがない。


「……やっぱりわざと撮ったんだ」


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