僕はそれでも恋をする
「ニラ子ー」
柳瀬君の声に、レンガの上に座っていたニラ子がとことこと歩み寄ってきた。
凄い、懐いてるんだ……
ニラ子を抱えあげた柳瀬君が立ち上がる。
「早川さんも、はい」
「え! え、あ、うんっ」
オドオドとしながら、柳瀬君の腕の中にいるニラ子を抱きかかえた。
一瞬、柳瀬君の手に触れた私の指が麻痺を起こした。
あんな少し触れただけなのに、心臓がバクバクする。
ニラ子が、羨ましいな……。
「顔が強ばってるよ早川さん。もしかして、猫苦手だった?」
「え? ち、違うよ! ちょっと考え事しててっ」
……柳瀬君のせいだ、なんて言えない。
でも、猫って温かいな。
人間と、似た温もり。
ニャァと鳴くニラ子の顔が、とても可愛い。
「かわいいなぁおまえ~」
思わず笑顔が溢れる。
動物って不思議だ。
ただ、鳴いているだけなのに、抱えているだけなのに、凄く愛おしさを感じる。
不思議だ。
『カシャッ』
……何、今の音。
顔を上げると、してやったりと言わんばかりの笑顔でこちらに携帯を向けている柳瀬君の姿。
「……写、真」
「えへへ。やり返し成功っ」
その瞬間、私は今までにない紅潮した熱を全身に感じた。